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アトピーがぐんぐん良くなる本

アトピーの権威、丹羽靭負先生の著書から、科学的にアトピーに対処するための情報を一部ご紹介します。

まとめとして

以上のことから、環境汚染とアトピー性皮膚炎重症化の因果関係をまとめてみますと、アトピー性皮膚炎患者は表7のように体質的に悪い脂が多く、また活性酸素を取り除くSODの誘導能が低いところへ、都市で発生した汚染化学物質が活性酸素を大量に発生させ、この活性酸素を取り除くことができず、体内の脂と結合して過酸化脂質が過剰に産生されて、アトピー性皮膚炎が悪化してくるという、一連の筋書きがきれいに証明されます。

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このアトピーの最近の激増、重症化は、患者さんが医師にかかる割合(罹患率)の増加だけでは決して説明できない事態まできていることを、医師・患者さん・行政のいずれもが深刻に捉えねばならない事態になっているのです。

アトピーにかかる4つの条件

私は、もちろん、ダニ、ハウスダストや食事アレルゲンなど、アトピーのアレルギー的側面の究明を否定するものではありませんが、この激増、重症化、高齢化、都市化してくるアトピー性皮膚炎を思うとき、患者個々人に特有の原因(例えばアレルゲン)の究明で解決されるものではなく、もっと万人に普遍的に共通した原因の検索を行うことがアトピー性皮膚炎解決の大切な問題だと思います。

たしかに、アトピーはや体質性のものです。
ただ、環境汚染のなかった時代にその体質だけで終わり、既述のような角質の保湿機能の低下が回復して治療していたのです。
それが、環境汚染によって過剰な活性酸素が発生し、これに対し活性酸素を取り除く体内のSODがアトピー患者は体質的に少ないために活性酸素を除去できず、これが脂と結合して過酸化脂質がどんどん作られてしまい、前述のように学童期までに回復するはずの角質の保湿機能が実際には回復するどころか、どんどん作られてくる過酸化脂質によって、角層が破壊され、保湿機能の低下がますます進行し、アトピー性皮膚炎がさらに悪化するようになってしまったのです。

そこで既存のアトピー性皮膚炎に対する考え方と、私の新しい研究による結論を併せて、アトピー体質なるものを考えてみます。
次項にa〜dと4つの条件をまとめておきましたが、アトピーの人は遺伝的に角質の保湿機能が低く乾燥肌のため、皮膚炎を起こしやすく、そこに、子供さんでは、特殊な食事に対する過敏な反応があり、皮膚炎が悪化してしまいます。
さらに、体質的にも体の中の脂が多く、かつ、環境汚染でできた活性酸素が過酸化脂質を作るための格好の条件を与えてしまいます。
そのため、過酸化脂質が増産され、過酸化脂質が皮膚炎をさらに悪化させると言うことができます。

<アトピー体質の本質>
(a)角層の保湿機能の低下(乾燥肌)
(b)(子供の何割かに存在する)食事アレルギーが皮膚炎を悪化
(c)体内の悪い脂が体質的に多い。また、必要な脂が少ない
(d)活性酸素を取り除くSODの力が弱い

アトピー性皮膚炎の特徴として、先に挙げたメジャーの変化、マイナーの変化のほとんどは、環境汚染(活性酸素、過酸化脂質)によってもたらされたものであり、人数の増加、年齢の上昇、アトピーの家族歴のない患者の増加、好発部位などで軽減することがなくなり、特に顔、首などの露出部に悪化した皮疹を持つ患者さんが多くなったなど、すべて(先述のアトピー体質に対する関与も含め)環境汚染が成せる業と言えるようです。

重症のアトピー性皮膚炎を持つ患者さんやご両親へ

これから、大学進学、就職、結婚を控えた息子さんや娘さんをお持ちのご両親で、どうしても患者のアトピー性皮膚炎が重症化するときは、これまで私が紹介しましたエピソードをよくかみ締めて、受験する大学や就職する会社に至るまでを真剣に選んでいただきたいと思います。
ステロイド外用の弊害を問題にする前に、私の指摘する食事制限と環境問題をぜひ最重要課題として考慮してください。

精神的な要因もアトピーを悪化させる

既述のように、食事アレルギーでアトピーが悪化するのは、13歳未満の徒国幼児期に多く、13歳を越し成人に近づいてきますと、食事で悪化する患者は激減し、今度は精神的な原因でアトピー性皮膚炎が悪化することがかなりの数の患者さんでみられるようになります。
例えば、受験勉強をやり始めたり、気を使うような新しい会社に就職したり、仕事が大変忙しく、寝不足、過労にストレスが重なったりするとアトピー性皮膚炎が急速に悪化することが多々あります。

寝不足、過労、ストレスは万病のもとで、私の出版予定の著書「クスリで病気は治らない」(仮題)にも強調してありますが、大きな難病を根本的に治すには(クスリよりも)充分な睡眠と過労、ストレスを避けることが大切なので充分注意してください。
ただ、この精神的原因の解決や、温泉療法のみでアトピーが改善したとしても、それはごく限られた人数の患者さんで、大多数の重症患者さんは、いろいろな治療法を総合的に行う必要があります。

アトピー患者の皮膚は保湿機能が低下している

アトピー体質の人の大切な特徴の一つに、乾燥肌があり、これは、皮膚の一番表面にある角層という層の保湿機能が正常の人と比べて、体質的に低下しているからなのです。
詳しく説明しますと、人間の皮膚の水分を外へ蒸発して逃さないように皮膚の湿度を保ってくれるのです。
これを角層の保湿機能と呼びます。
何度も申しますように、アトピー体質の人は“Xevosis(乾皮症)”といって、この角層の保湿機能が弱く、角層の下の方の皮膚の水分が角層を通って上へ逃げ出してしまうのです。
ですから、アトピーの人は、乾燥肌をしており、アトピー性皮膚炎が悪化しますと、ますますこの乾燥肌が増悪していきます。

この角層の保湿機能を科学的に数字に表し、測定できる面白い方法を紹介します。
図5に図示して解説しましたが、この実験方法で、アトピー体質の人の角層を特殊な機械を使って薄く剥がし、角層の部分だけを取って、ガラス版・濾紙の上に乗せ、両端をテープで密着させて測定しますと、濾紙の水分がどんどん失われますが、正常な健康人の角層を持って来て、測定実験してみますと、水分はなかなか逃げ出しません。
この現象は、アトピーの皮膚炎の部分の角層を剥がそうと、皮膚炎を起こしていない正常皮膚を取って来ようと、アトピー体質の人であれば、同じ現象(保湿機能の低下)がみられます。

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また過酸化脂質は、角層の保湿機能の実験で興味深い反応を示します。
正常人の角層を剥がして、ガラス版・濾紙の上に置き、両端をテープで密着した後、最上層の正常人皮膚の上に、エーテルやアルデハイド、さらに、過酸化脂質を数滴落としますと、保湿機能の強力であった正常人の角層が障害を受け、保湿機能が低下し、水分が上へ逃げていき始めるるのです(文献、英文K.HashimotoーKumasaka参照)。

以上の説明から、皮膚の構造や角層の保湿機能について充分ご理解いただけたと思いますが、過酸化脂質は、このように、正常な角層の保湿機能を破壊してこれを奪ってしまうのです。
ですから、環境汚染で続々と発生する活性酸素が、身体の脂と結合し、過酸化脂質を形成しますと、この大量にできてしまった過酸化脂質が、元来保湿機能が低く、乾燥肌のために、皮膚炎を起こしているアトピー性皮膚炎患者の角層に付着して、いっそうの保湿機能を奪い、低下させるという悪循環が生まれ、どんどんアトピー性皮膚炎を悪化させていっていると理解されるのです。

こうして昔は小学校へ行くまでには、自然治癒力で角層の保湿機能が快復いてアトピーも消失していたものが、このように環境汚染で過酸化脂質がどんどん作られ、それが患者の皮膚に付着するため、小学校へ行く頃になっても、どんどん患者の保湿機能を奪うため、学童期にアトピーが治るどころか、ますますアトピーを悪化させいくものと考えられるのです。
例えば、2歳の子供と20歳の青年では環境汚染にさらされる期間が18年違い、その分だけ20歳の青年は皮膚炎が悪化します。
したがって、小児よりも成人に重症のアトピー性皮膚炎が続出してきた事実は、環境汚染の観点から考えると、よく理解できることです。

遺伝としてのアトピーと環境問題

元来アトピー性皮膚炎、気管支ぜん息、アレルギー性鼻炎等は、遺伝形式は不明ですが、遺伝的要因が強いと考えられています。
昔は患者さんの大半は、家族に、また祖父母に、アトピー体質(アトピー性皮膚炎や気管支ぜん息、アレルギー性鼻炎)の人がいて、その遺伝的な因子をもらってアトピー性皮膚炎が発生していた患者さんが多かったのです。
これを“アトピー’(体質)の家族歴がある(陽性である)”というのです。

もちろん、今でもアトピー性皮膚炎は、遺伝的要因(例えば、皮膚角質の保湿機能低下による乾燥肌や食事アレルギー等)が原因になっている場合が多いのですが、最近は、患者数が激増したため、このアトピー体質の家族歴がない人、また、はっきりしない人がかなりの数でアトピー性皮膚炎患者の中の割合を占めるようになってきてしまいました。

これは、昔の、非常に軽い遺伝的要因の場合はアトピー性皮膚炎がほとんど発生せずに終わっていたような多くの人々にも、環境汚染(が作り出す活性酸素、過酸化脂質)が、皮膚の保湿機能を奪って乾燥肌の皮膚を発生させるようになってしまったのです。
そのため、最近のアトピー性皮膚炎患者の中には、昔と違って、家族歴でアトピー体質をはっきり持っている人の割合が少なくなっているという現象が生まれています。
前述のように、ひと昔前は、腕、下肢の屈側部にひどい症状があったのですが、最近では、全身型の患者が増え、かつ、季節に関係なく、1年中ひどい症状を示すようになっています。
さらに成人型の患者さんに、顔、首に特に悪化したひどい症状を持った人が多くみられるようになってきています。
これも、先述したように、環境汚染の排気ガスや重油をたく工場の煤煙が、露出した顔や首に直接あたるためと考えられています。

空気のきれいなところはアトピーが軽い

私は、年数年、長野県に私のファンが大勢いますので、日程をやり繰りして健康相談に行きます。
その中に、30人あまりのアトピー患者さんがいますが、興味深いことに、全員が30年前の古いタイプのアトピー性皮膚炎であり、年齢的にも乳幼児・小児で、症状も四肢好発部を中心とする非常に軽い患者さんで、成人アトピーの数も非常に少なく、かつ大都市や工業都市でみられる私の病院へ入院を必要とするような重症のアトピー皮膚炎患者は1名もみつかりません。

もう一つ、私が環境汚染説に非常な自信をもったエピソードをご紹介しておきます。
約3年前、奈良県生駒の20歳の男性(表6の第1例)で、全身が象の皮膚のような重症患者がいました。
足摺岬にほど近い私の病院に入院させて、軟膏治療を行うと改善されますが、退院後も同じ治療をしているにもかかわらず徐々に悪化していきました。
この患者さんは重症アトピー性皮膚炎を反復するため、満足に仕事にも就けず収入もありませんでした。
気の毒に思った私はこの青年に、こう提案してみました。
「なんだったら、一度私の病院に勤務してみるか。うちへ来ると良くなるし、あなたも経済的に助かるだろうし」。
この青年は、すぐ私の病院に就職して、就職後3-6ヶ月経った頃には軟膏治療もほとんど必要なくなっていました。

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もう一例(表6の第2例)、名古屋の20代の娘さんでした。
これも私の病院に入院すると良くなり、退院すると首から顔面にかけて糜爛、湿潤したひどい症状を反復していました。
この娘さん、ある時名古屋に帰っていて、私と名古屋で会った時に、非常に皮膚炎が改善されていたことがあったのです。
塗っている軟膏など全然変えていません。
その娘さんにどいう変化があったのかといろいろ問診してみますと、彼女が数日前まで2週間ほど沖縄の友人の家に行っていたことを突き止めたのでした。

以上の事柄から、私は、アトピーの重症化は絶対に環境汚染が主な原因であるという確信を持ったのです。
さらに、先に挙げてきた科学的な検査結果からも、環境汚染説を口を酸っぱく唱えるようになったのです。

現在、私の病院は成長期にありまして、従業員数がどんどん増えて来ています。
その中に、なんと10名の元重症アトピー患者(入院すると改善し、退院すると徐々に悪化を反復)がいます。
表6にまとめて表示してありますように、全員が生駒の青年のように入院後3ヶ月以内にほとんど治療の必要がなくなっています。

環境汚染度と重症アトピー患者数は比例する

f_eoa060501.gif図3をご覧ください。
これは、私の病院に全国各地から入院するために来た何百人もの重症アトピー性皮膚炎患者の出身地別分布図です。
この中で、まず、全国ナンバーワンは名古屋中心の中京地区と、岡山ー広島近辺の瀬戸内沿岸石油化学コンビナート工業地域です。
これは、先ほど申しましたように、NOxを排出する石油化学工場がこの両地区に密集していることでも納得がいきます。
そのうえ、中京地区は同じくNOxを大量に含む排気ガスを排出する日本一の豊田自動車工場があります。
また、岡山ー広島にはその上、同じくNOxを排出する日本一の製鉄工場(福山の日本鋼管)があります。
続いて、重症患者が多いのは東京、大阪近辺で、これは工場のせいもあると思いますが、大半は何百台もの住民の自動車と、また、そこを通過する何千万台の自動車の排気ガス(やはりNOx)が原因と思われます。
あまり都市化していない地域でも、高速道路の近辺にすむ患者さんに時おりアトピー患者さんがいます。
その他、比較的重症患者の多い地方として、苫小牧、富士市、伊予三島市ー川之江市(以上、製紙工場のNaOHが原因と思われます)。
さらに室蘭(これは製鉄工場)、札幌、仙台(この2都市は人口増加による自動車の排気ガス)などが挙げられます。
大分県の海岸地区には大きな石油備蓄基地があります。その他、九州の患者の多い地区は工場とか人口密度で説明がつくと思います。

要するに、私が最近のアトピーの特徴として列挙した4番目、すなわち、大都市、工業都市に居住する患者の増加は、活性酸素を大量に発生する環境汚染でほとんど説明がつきます。
ただ、製紙工場にかぎり活性酸素は関与せず、そこから排泄される苛性ソーダ-正体は、苛性ソーダです。また画家やペンキ職人、シンアーを扱う仕事をする人などにアトピー性皮膚炎の症状が激しい患者さんが増えてきたことからみて、これは有機溶剤が角質の保湿機能を奪うためと考えられます。

先述したように、苛性ソーダの排泄が直接皮膚を刺激、あるいは皮膚の保湿作用を奪うこともアトピーの要因として考えられます。
皆さんが列車や自動車で伊予三島、川之江を通過するときに経験される、あの鼻をつくような“ツーン”とする異常なまでの刺激臭の正体、それが苛性ソーダです。

アトピーにみられる白内障、網膜剥離の合併も過酸化脂質が原因だった

重症アトピー性皮膚炎の患者さんで白内障、さらには網膜剥離という眼病変を合併しているケースをよく見かけます。
私のここ4年間の統計でも、アトピー性皮膚炎を反復、重症化して私の病院に入院された1000人あまりの患者さんのうち、約10−30%に白内障の合併がみられ、約3%に網膜剥離の合併があります。

この白内障の原因について考えると、図2のように、紫外線が眼のレンズにあたり、前述のような理由で活性酸素が発生し、眼球内の奥の網膜という所で、網膜は非常に脂(不飽和脂肪酸)の多い場所であるため、ここで過酸化脂質が生産され、その過酸化脂質が前方に送られ眼のレンズの内側に付着して(過酸化脂質は白濁した脂ですので)眼が見えにくくなる病気なのです。
一方、初めに、眼底の網膜で作られた過酸化脂質がそのままその場所で大量に作られていきますと網膜を傷つけ、剥がして網膜剥離が発生し視力障害がもたらされるのです。

ですから、白内障、網膜剥離が、重症アトピー性皮膚炎に合併して当然ですし、また逆に、この過酸化脂質によって起こる両目病変が重症のアトピー性皮膚炎にみられるという事実は、アトピー性皮膚炎の過酸化脂質原因説を裏付けることにもなります。

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血液検査でも証明される過酸化脂質値の異常

ちょうど以上の私の理論を裏付けるかのように、過去3年間にわたって私の病院に入院した数百人の重症アトピー性皮膚炎患者の血液を私の研究所で検査してみますと、患者の血液中には、前述の過酸化脂質の原料になる不飽和脂肪酸や低比重の脂質(リポ蛋白類)が健康対照群に比べて、異常に多く、したがって過酸化脂質値も当然高くなっています。また、この値は成人や重症患者ほど高く、過酸化脂質がアトピー性皮膚炎の症状にいかに関わっているかを示唆しているといえます。

私は、全国の病院や治療所で、抗癌剤を拒否した癌患者(特に末期)やステロイドの副作用でどうにうもならなくなった膠原病患者の診療を時々やっていて、この過酸化脂質を測定するように指示します。しかし、皆、商業ペースの請負でやっている検査センターに出して測定しているためか、過酸化脂質の測定に限って、正確な値が出たのを見たことが一度もありません。したがって、過酸化脂質の正確な値を知ろうとすれば、私の研究所をはじめ、活性酸素や過酸化脂質の研究を専門でやっているところに依頼してください(本当の値に非常に近い値がでてきます)。

重症化の一途をたどるアトピー性皮膚炎

さて、アトピー性皮膚炎の原因については様々な要素が考えられ、必ずしも一律に論じることはできませんが、すでに述べたように大気汚染をはじめとする近年の深刻な環境破壊が「現代型」アトピーの主犯であることは間違いありません。
私が日々接する重症のアトピー患者さんたちの住所が東海道ベルト地帯やその周辺の工業地域に集中している事実からも、このことは容易に推察できます。
「現代型」アトピーの患者さんの体の内部では一体何が起こっているのでしょうか?
私の研究所で測定したところ、アトピー性皮膚炎の患者さんは、健康人と比較すると不飽和脂肪酸が多く、SOD誘導能が低いという結果が出ています。

不飽和脂肪酸は活性酸素と結びついて過酸化脂質となり、血管、臓器、皮膚組織に付着して徐々に生体に障害を与えてしまうのですが、アトピー性皮膚炎の患者さんは、健康人と比較するると不飽和脂肪酸が多く、SOD誘導能が低いという結果が出ています。

不飽和脂肪酸は活性酸素と結びついて過酸化脂質となり、血管、臓器、皮膚組織に付着して徐々に生体に障害を与えてしまうのですが、アトピー性皮膚炎の患者さんの場合は、過酸化脂質が皮膚の最上層の角質層に付着して皮膚の水分機能を奪ってしまっているのです。

それでも、日本人が和食を好み、環境破壊が今ほど深刻化していなかった頃は「乾燥肌」にはなっても不飽和脂肪酸が増え、大気汚染に代表される環境破壊により体内で活性酸素が大量に作られるようになると、もともとSOD誘導能の低いアトピー体質の皮膚はひとたまりもありません。
こうして「現代型」アトピーが増加したのでした。
重症のアトピー性皮膚炎の患者さんでも、高知県土佐清水市にある私の病院に入院すると、たちまち快方に向かいます。
病院での治療もさることながら、当地が大気汚染とはまったく無縁の土地柄であることが治癒力を増しているのです。

また、薬品も細胞の内外で有害な活性酸素を産み出し、さまざまな難病、奇病、膠原病や一般の炎症疾患の原因となっています。
こうしてできた大量の活性酸素は、直接人体に発癌性物質、あるいは細胞障害性物質として作用するのですが、活性酸素は元来非常に強い作用力を持つ半面、作られるとすぐに消滅する性質をもっています。
そこで、この瞬時になくなってしまう活性酸素よりも作用力は強くないが、いつまでも体内に存在し、人体に様々な弊害を及ぼす過酸化脂質という変質した脂が注目されるのです。

活性酸素+脂質→過酸化脂質(不飽和脂肪酸)

この過酸化脂質は、前述のように酸素に脂質類、特に不飽和脂肪酸が反応してできる脂質で尿から排泄されず、表4に示しましたように、組織や臓器の表面や血管内壁、眼球レンズ内壁、皮膚などに付着、浸透し、徐々に組織や臓器の表面や血管壁をいためつけていく脂です。
このようにしてできた細胞障害性のある変質した脂が、アトピー重症化の大きな原因の一つになっています。

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オゾン層の破壊は生命絶滅の危機

宇宙船地球号とも呼ばれる私たちの惑星=地球は、生命体の生存にとってじつに都合よく作られています。もしも現在、銀河系の外の宇宙から地球を観察しにやってくる知的生命体がいるとしたら、彼らの旅はきっと驚きの連続になるでしょう。
とりわけ、その宇宙人の御一行様が驚嘆の声を上げるに違いない事実の一つに紫外線とオゾン層の関係があります。

紫外線には殺菌効果があり、皆様が冬の衣類や布団を夏、日光にさらして乾かすことでもおわかりのように、日光紫外線が、カビやばい菌の繁殖を抑えている事実はよく知られていますが、実はこれは紫外線が照射された物体の表面でシングレット・オキシジェンという活性酸素が発生して、この活性酸素が殺菌作用を果たすという過程を経ているのです。
つい先ごろの朝日新聞(平成6年3月11日付け)に、「最近、カエルがめっきり減った。米国では、種によって絶滅した。蛙はSODの力がないのです、紫外線増強による活性酸素増加に対抗できず、数が激減しているのだ」という記事が掲載されてていましたが、活性酸素は、いわばジキルとハイドであり、「過ぎたるは及ばざる如し」という類のものなのです。
それでは、活性酸素の過剰発生を防ぐにはどうすればよいでしょうか。

答えは、地球に到達する紫外線の量を適度に保つことです。そして、神様がその手段として用意したのがオゾン層なのです。
オゾン層の重要な役割は、地球上に殺菌に必要な紫外線を通過させ、それ以外の紫外線を反射してしまうことです(図1)。

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炭酸ガスやフロンガスによるオゾン層の破壊は現在マスコミでも大きな社会問題として取り上げられるようになってきましたが、政府や産業界には事の重大性に気づかない人が多いのか、その対策は全くのんびりしたものです。

このままオゾン層の破壊が続けば大量の紫外線を浴び、人々の健康は著しく損なわれ、やがて、地球上の生命は絶滅の危機にさらされます。
「地球人のやつらはオゾン層の役割を知らなかったのかな」21世紀のある日、人っ子ひとりいない地球を訪れたET(宇宙人)が寂しげにつぶやく-そんなSF的な事態を引き起こさないためにも、今、私たちは、一人ひとりが地球環境保全に向けて、できる限りの努力をしなくてはならないのです。

このような実例でもおわかりのように、地球上には紫外線照射量が異常に増加し、活性酸素が増産され、汚染度の悪化に平行して、顔、首などを中心とした露出部のアトピー性皮膚炎が増加、重症化しています。
また、前述あるいは後述する工場、自動車の排出するNOxももちろん活性酸素を大量に発生させ、これも同じく露出中心の重症アトピーを生み出す大きな原因となっています。

活性酸素と脂質との反応・結合が問題だった

では、アトピーの原因はどこに求められるのでしょうか。
私はアトピーの主因を[活性酸素]にあると長年主張してまいりました。
このアトピーの大きな原因となる「活性酸素」とは一体どんなものでしょう。
ここでさらに詳しく述べてみましょう。
医学用語辞典さえ見当たらないことが多いこの言葉は、普通のお医者さんの間で、まだ知られていません。
しかし、現代人が健康に毎日を過ごす方法を真面目に考えるならば[活性酸素」はもはや避けて通ることのできない重大な問題になっていると言っても過言ではありません。
読者の皆さんの中には,お医者さんも知らないような専門の話になぜ、素人が耳を傾けなくてはいけないのかと訝しく思う方もいるかもしれません。

本来、活性酸素は生化学者の研究テーマの一つに過ぎませんでした。
細菌やヴィールスなどの異物が体内に侵入すると食細胞が動員されて、これらの異物を食べてしまいます。
ところが、異物が次々に侵入してくると食細胞は大忙しになります。
ちょうど一昔前に流行ったテレビゲームのパックマンのように、食細胞は順次異物を追いかけて食べるという動作を繰り返すのです。
このとき、いったん満腹なった食細胞が再び食欲旺盛になるためには先に食べた異物を溶かしてしまわなくてはなりません。
この役割を受け持つのが活性酸素です。
したがって、活性酸素自体は人間にとって不可欠の存在です。
活性酸素が生成されないと、CGDという恐ろしい病気の原因にもなります。

しかし、実は問題はこれから先にあります。
活性酸素がどこまでも善玉ならば、その研究も専門家だけに任せておけばよかったのですが、活性酸素にはあたかも先に述べましたようにジキルとハイドのような二面性があり、しかも、活性酸素が悪玉の役割を果たすように仕向けた犯人は他ならぬ文明社会そのものであることが最近の研究で明らかになったのです。
すなわち、「過ぎたるは及ばざるが如し」という諺の通り、活性酸素が体内で増加し過ぎると、勢い余って自分の体の組織をも攻撃するに至るのですが、近年活性酸素の過剰をもたらせた正体は、薄くなったオゾン層を突き破る紫外線であり、無神経に乱用される放射線であり、病院で提供される医薬品であり、また最近増加しつづけている自動車による排気ガスは、製鉄工場でたかれる重油から発生するガスと共に大量の窒素化合物(NOx、No、No2、No3など)を含み、このNOxも体内で大量の活性酸素を発生させます。
その他、塩化化合物、トリハロメタン、PCB、メチル水銀、Mn3+化合物、Cd2+化合物などの工場廃液やヒドラジッド、クロラムフェニコールなどの医薬品も細胞の内外で有害な活性酸素を生み出します。

この活性酸素の過剰が原因で起こる病気は、癌や成人病をはじめ、私たちの病気の80-90パーセントに及んでいるとさえ言われています。
ここで、私たちは、「活性酸素」の問題を通して文明社会のあり方や私たちの生活スタイルそのものを真剣に考え直す必要があるのではないでしょうか。
そこで皆さんにぜひ覚えておいてもらいたい公式があります。

活性酸素 + 脂質 → 過酸化脂質

これはとても重要な公式です。
というのも“悪玉”活性酸素は非常に強力な代物ですが、作用時間は短く、作用部位も細胞の表面に限られています。
これに対して、過酸化脂質は、強さはそれほどでもありませんが、作用時間が長く、細胞の内部に浸透Sルする性質を持っています。
したがって、生体に実際害を及ぼすのは活性酸素そのものというよりは過酸化脂質の方であろうと考えられるのです。

「活性酸素」と[脂質]の組み合わせは、まさしく悪い意味での鬼に金棒です。
ここでいう「「脂質」とは、一般に油・脂肪などを指し、体の中のコレステロール、中性脂肪とか食品、化粧品の中に含まれているいわゆる“あぶら”類を指し、この悪玉過酸化脂質の原料となる脂質は、正確に申しますと、2重3重の結合をもった不飽和脂肪酸ということになります。

児童に現れた成人型アトピー性疾患

成人で重症化したアトピー性皮膚炎がここ数年激増してきたことは前述の通りですが、この1,2年特にその傾向が強くなり、皮疹の形態の中でももっとも治療が難しい結節性痒疹型の皮膚(ブヨに刺された跡にできる疣のように固い根の深い皮疹)の成人患者が増えてきました。
このような重症化傾向は3年程前までは子供さんにはほとんど見られませんでしたし、また、前項で述べました最近のアトピー性皮膚炎のメジャー・マイナイーの変化も子供さんにはあまり見られませんでした。
ところが驚きべきことに、ここ1、2年前からは幼児から学童にかけての年齢層に,成人にみられる肥厚苔癬化した皮疹や結節性痒疹型の患者さんが出現してきました。
これは奇しくも、“悲惨な皮膚”のために企業を解雇される患者さんが出始めてたのとほぼ時期を同じくしています。
まったく恐ろしいことです。
この現実は、医師にかかる患者の罹患率が増加したという説明では済まされるはずがありません。
科学的な原因分析と抜本的な対策が焦眉の急として求められているのです。

<附記>
昭和40年代、アトピー性皮膚炎の原因の研究を熱心にやっていた京大・皮膚科の太藤、上原グループ(当時、太藤先生は京大教授、上原先生は現滋賀医大教授)は、アトピー性皮膚炎はアレルギー(特に食事アレルギー)ではないという学説を唱え、頭皮のフケによる単なる皮膚炎(dermatitis)だという実験結果を内外で発表しておられました。
特に上原教授は、今でもアトピー性皮膚炎は、食事アレルギーではないという節を曲げず、その理由として、すでに述べた“アトピーの食事アレルギーは成人に非常に少なく、乳幼児では、年齢と共に消失する”という点を強調し、“本当にアレルギーなら年齢と共に消失することはない”と主張しておられます。

アトピー性皮膚炎、今と昔

30年前、私が医師になった頃のアトピー性皮膚炎は今のアトピー性皮膚炎と全然異なっていました。
そもそもアトピー性皮膚炎・小児ぜん息・アレルギー性鼻炎の3つの病気はアトピー体質の家系に発症するといわれ、同じ患者にこの3つの病気が同時に現れたり交互に出ることはまれではありません。
昔はアレルギー性鼻炎は非常に少なく、一方、アトピー性皮膚炎とぜん息はかなりの患者数がありましたが、この2つの病気とも、杜氏の医学の教科書にも書いてあった通り、患者が小学校へ入学する頃までには必ず治り、したがって、治療も対症療法で、その時その時、急場しのぎでいればなんとかなり、私達医師にとっては非常に“卸しやすい、治しやすい”病気でした。

また、アトピー性皮膚炎は小児に限られ、しかもその症状は軽く、いわゆる四肢好発部位(両腕、肘と両下肢の膝の内側部)に乾燥し、やや肥厚した皮疹と、ひどい患者さんでも躯幹部(胴体)に鳥肌のまじったような丘疹(lihenoid papel)と乾燥した落屑を伴う紅斑が認められるくらいで、しかも小学校へ入るまでには治ってしまいますので、ステロイドの外用をやろうと何を使おうと長い期間使う恐れがなかったので、特に問題はありませんでした。
ところが、20年前頃から、そのアトピー性皮膚炎の病状が少しずつ変化し始め、ここ14,5年前から、アトピー性皮膚炎がすっかりさま変わりしてしまったのです。
大きな変化と小さな変化を箇条書きすると次のようになります。

A)四大変化(メジャー)
  <1>患者数の増加(激増)
  <2>症状の悪化(肥厚、苔癬化、結節性痒疹型)
  <3>罹患あるいは増悪年齢の高齢化
  <4>大都市、工業都市に居住する患者の増加

B)四つの小変化(マイナー)
  <5>好発部位に関係ない病変の増加
  <6>季節性の変化のない患者の増加
  <7>食事やアレルゲンに関係ない患者の増加
  <8>アトピーの体質家族歴陰性、あるいは、はっきりしない患者の増加

この8つの変化の個々の説明に関しては、後ほど、倫理の進展に伴って一つひとつ説明していきますが、まず、メジャーの四大変化のうち(1)(2)(3)ですが、私が医師になった頃は、アトピー性皮膚炎は、小学校へ行くまでに全員治癒し、症状もBの小変化にありますように腕や下肢の屈側部に限られ、ひどい患者さんで、身体(躯幹など)に、鳥肌の立った乾燥した皮疹、落屑(フケの目立つ状態)がみられる程度でした。
そして小学生のアトピー性皮膚炎患者は本当に存在しなかったのです。これは歴史的な事実です。

それが、最近は、中学、高校、大学、さらには20歳ー30歳の青壮年、娘さん達が、前述のように全身に肥厚、苔癬化し、象のような皮膚、オロシガネのようになったり、結節性痒疹といって、硬く深い皮疹が出現し、これは大学病院でもっともきつい高濃度のステロイドを湿布しても好転せず、困り果てた末に私の病院に来院される患者さんが非常に多いのです(私の病院は自由診療です。保険のきく病院で好転するようなら、わざわざお金のかかる私の所へなど来られません)。

特に結節性痒疹型は私の病院の軟膏療法(詳細は後述)を行っても相当の治療期間を要します。
普通はかなり重傷の患者さんでも1週間か、せいぜい10日くらいで退院されますが、この結節性痒疹型は1-2ヶ月要します。
特に肥厚・苔癬化、結節性痒疹型は、痒いからといって患者さんがかいても、皮疹の厚さが厚くて掻ききれるものではありません。
ですから、不眠から会社、学校を休むという最悪のパターンを招いてしまいます。

少し専門的な観察になりますが、成人型アトピー性皮膚炎が増える中でも3つの程度があり、まず一度、幼児期に軽快治癒し、中学〜大学生頃再発するタイプと、次に、幼児期よりずっと続いて徐々に悪化し、成人重傷アトピー性皮膚炎になる人と、さらに今度は、幼児期に全然かゆい皮疹のなかった人が成人近くになってから急に、重症アトピー性皮膚炎を発症するタイプとの3グループがあり、この原因は不明です。

患者数も、とにかく激増してきています。先日のニュース報道によると、大阪府もアトピー性皮膚炎の実態調査に取りかかり始めました。
また、厚生省も激増、重症化してきたアトピー性皮膚炎の実態について調査中で、未だ非公開式データですが、およそ4家族に1家族はアトピー性皮膚炎患者を抱えているそうです。
ただ、残念なことに30年前に日本全国でアトピー性皮膚炎患者が総計何人いたかという免疫的調査データがないため、いくら現在「増加した、増加した」「成人重症型が増えた」と言っても正確に科学的に比較する資料がありません。

そこで、“腰の重い”(よい意味では“慎重居士”の)大学の先生方の中には、「いや、患者が医師にかかる罹患率が増したのだ」とか、批判されるアカデミックな向きがたくさんおられます。
が、事態はそんな“のんびり”した事を言っている時ではありません。
私は、そのような先生方に対して、「貴方達はお若いが、私が医師になった30年前には、本当に小学2、3年生のアトピー性皮膚炎なんて一人もいなかったのですよ。いわんや、全身重症の気の毒な大人のアトピー性皮膚炎なんて、全然見た事も聞いた事もなかったし、もちろん、もしあれば当然学会発表になったであろうに、一人の発表もなかったのですよ。この現実を皆さんはどうお考えになりますか。今何らかの手を打たなければ、重症患者の多くが学校や会社を休み、企業から断られ、社会からまさに抹殺されようとしているのですよ」と応酬しています。

次にマイナー小変化は、いずれも昔型のアトピーの特徴が失われていることを示します。
すなわち、昔のアトピー性皮膚炎は、メジャーの大変化の所でも触れましたように、腕と下肢の屈側部に必ずといってよいほど病巣がみられ、これがアトピー性皮膚炎診断基準(アトピー性皮膚炎という診断を下すのに必要な条件)のもっとも重要なものでした。
ところが、重症化してきたため、腕、下肢だけに限らず、全身に病巣が拡大してしまい、また、こういう腕、下肢の好発部以外の場所にも出てくるようなったのです。

次に(6)の季節の変化ですが、昔のアトピーは、冬悪化してそれ以外の季節では自然に軽快したり、また、患者さんのよれば、夏悪化して冬改善されたりする、季節による変化があったのですが、最近では、環境汚染がアトピー性皮膚炎を悪化させているため、1年中悪い症状を呈し、環境汚染とそれによって発生する活性酸素、過酸化脂質が年中存在し、増産されるため、季節によって自然に軽快改善されることがなくなってしまったのです。

(7)については、昔は、患者さんの数も少なく、その中にはアトピー体質の一つとして食事で誘発される人がかなりいたのですが、最近では、個人個人に特有な体質による異常(アレルギー)だけでは済まされない、もっと多くの人々に共通した原因、すなわち、環境汚染がアトピー性皮膚炎(増加、悪化)の大きな原因となっていることを示しています。

以上のことがらを平成4年度の私の病院の418人の入院患者から統計をとってまとめ、昨年の日本皮膚科学会誌に論文にして発表した表がありますので、表1として簡単にまとめて表示しておきます。
私たち科学者・医師達は、この現状を正しく率直に直視し、無責任なステロイドの外用のみに頼るのではなく、また、同じく無責任で何ら化学根拠もない、また実際の効果も挙げられないでいる自然回帰の療法でもなく、本当に患者さんの側に立った、長期の抜本的治療解決法を追求する必要に迫られているのです。

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